誰か一人が……-2

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両親を交通事故で亡くしたばかりの渋谷和也は、抜け殻のように茫然とした状態だった。 学校に行く以外はずっとぼんやりとした状態で、何を考えているのかも分からないような奴。 俺たち施設で育ったメンバーはそんな渋谷和也の事を気にかけていた。 特に、京香は、渋谷和也の事を何とか元気にしようとしていたのを今でも鮮明に覚えている。 京香は、誰にでも優しい部分があるから。 渋谷和也の事を見ていて、ほっとけなかったのだろう。 毎日いろんな場所に連れていこうとしていたな。 河原を見ていたり、ショッピングモールに連れて行こうとしたり。 抜け殻状態の渋谷和也に色々なものを見せようとしていた。 俺は2人についていって、そんな様子を黙って見守っていたんだ。 でも、渋谷和也は全く変わる様子はなかった。 何を見ているかも、何を考えているかも分からない状態が続き、ずっと茫然としているような態度だった。 だからこそ、あいつは俺や京香の事を覚えていない。 そんな茫然とした状態のあいつが変わるきっかけは、たった一つの事だった。 あの時は俺も衝撃を覚えて。 これまでずっと無表情だった渋谷和也が笑うなんて。
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