第1章

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小さい頃の私は改札を通るときに背筋を伸ばしていた。 握りすぎて湿った切符。 駅員さんから受け取ったあと、大事に大事にしまった。 定期も初めは緊張してたっけ。 小さな街に降りる人は、ぽつりぽつり。 大きなバックで出ていった隣のお兄さんは戻って来なかった。 高校を出たら、多くの若者は出ていく。 でも私はこの街が好き。 「まだ読んでるの」 駅員さんが笑う。 駅舎を掃いている。 「この陽の当たりかたが好きなんです。暗くなって見えなくなるまで、もう少しだけ、って」 「そう言って随分悪くなったんだろ」 眼鏡をつつかれる。 あ、そっか。 もう、仕事の終わる時間。 「もうすぐ制服、着なくなるんだな」 切符の代わりにずっと握っていたいものが出来た。 背伸びして囁く 「ねえ、春になったら手を繋いで乗りたい」
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