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「実は私、白井さんのこと調べたんですよ」
「えっ?」
「あなたの奥様にも会ってみたのですが、あなた嘘をついてますね」
「嘘?なんですか?」
「あなたは、犬なんて飼ったことないでしょう?」
「なんてこというんですか。オスカーは私の犬ですよ」
「じゃあ、どこで飼ってたんですか?奥様もご近所の方も犬のことは知らないと言ってましたよ」
「それは…」
「犬を飼ったことのないあなたが、50万円を出してまで欲しがるなんて不思議ですね」
「そこまで調べるとは…」
「本当のことを教えて頂けませんか?」
「事情は言えないが、大切にする。だから譲ってくれないか?」
「駄目です。事情を伺ってから考えます」
白井は険しい顔をしたまま、黙り込んでしまった。
「もし、お話しできないというなら、この話はなかったことで」
「ちょっと、待って下さい」
「お話しできるようになったら、また連絡をください」
千円札をおいて、喫茶店を後にした。
* * *
家に帰ると由香里が玄関まで走ってきた。
「どうだった、決まった?」
「いや、決まってないよ。白井さんはオスカーの飼い主じゃないみたいだし」
「え?どういうこと?」
「飼い主じゃないけど、欲しがっている人ってことさ」
「意味わかんない。でも、いいんじゃない?50万円払ってくれるんでしょ?」
「うーん、大切にしてくれるか怪しいから、断ってきた」
「ちょっと待ってよ。五十万円よ、五十万円!あなたの給料の三か月分よ。馬鹿じゃないの?」
「そういわれても、オスカー…もとい、翔次郎はあそこに行っても幸せになれる感じがしないよ」
「五十万円も出してくれる人が大切にしないわけないでしょ?」
「いや、五十万円も出すとは言っているけど、犬好きな感じはしなかったし」
玄関前で言い争いをしていると、翔太が眠そうな顔をして起きてきた。
「お父さん、翔次郎はもう連れていっちゃったの?」
「連れて行った?いや、どこへ連れて行くんだ」
「だってお母さんが、本当の飼い主のもとへ返すのが幸せだって」
私は由香里を睨み付けた。
「今日は、話し合いに行ってきたんだ。大丈夫、翔次郎はうちの家族だ。これからもずっと一緒だ」
「本当?」
「ああ、本当だ」
「お父さん、ありがとう」
翔太は嬉しそうに笑った。
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