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夜中に、激しく体を揺さぶられた。
「あなた、あなた。ちょっと」
由香里が不安そうな顔をして私の手を引っ張ってくる。
「ん、どうしたんだ。こんな夜中に」
「外で妙な音がするのよ。見てきてよ」
「妙な音?」
寝室から出ると、外から犬のうなる声や、か細い人間の声が聞こえる。
これは、泥棒か?
玄関にあるほうきを武器代わりに手に取り、そっと外へ出た。
声は庭のほうから聞こえている。
翔次郎がいるはずだが、泥棒に吠えないとなると、番犬としては期待出来ないようだ。
庭に顔をだすと黒ずくめの男が翔次郎を縛り上げて、持ち運ぼうとするところだった。
「泥棒!!」
背後から叫ぶと、男は翔次郎を抱えたまま、逃げ去ろうとした。
すかさず、手に持ったほうきを振り回すと、柄の部分が男の足に当たった。
男はその場で倒れこみ、その勢いで翔次郎も地面に投げ出された。
「この泥棒め!」
うずくまっている男を、無我夢中でほうきで叩き続けた。
「痛い、痛い!許してください」
男は、それでも逃げようとするため、背後から羽交い絞めにした。
「許してください、金城さん。ごめんなさい」
「逃がさん!」
しかし、どこかで聞いたような声だ。
サイレンの音が近づき、家の前に止まると男は暴れるのを止め、大人しくなった。
駆け付けた警察官に男を引き渡すと、その顔に見覚えがあることに気付いた。
「白井さん?」
白井は疲れ切った表情で、うつむいていた。
* * *
白井の弁護士が、示談の申し入れのために私を訪ねてきた。
今のところ、被害と呼べるのは近所の噂になったこと、夜中に突然縛られて投げ出された翔次郎の心の傷くらいだろうか。
「あなたが翔次郎を欲しがる理由を教えてくれたら、示談を受け入れる」
弁護士にそう伝えると、弁護士は白井から預かってきたという一枚のメモを差し出した。
そこには「成底」という名前と、電話番号が殴り書きのような文字で書かれていた。
「この方に会えば分かるとのことです」
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