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会社の昼休みに、メモに書かれた電話番号にかけてみた。
「もしもし、成底だが」
成底?この人が翔次郎の本当の飼い主か?
「はじめまして、金城と申します。オスカーの件で電話をしているのですが」
「オスカー?はて、何のことかな?」
「白井さんという方から、成底さんの電話番号を伺いまして」
「白井?白井なら知ってる。なんでも捕まったらしいな」
電話口で笑っているのが聞こえる、なんとなく嫌な感じだ。
「えぇ、その白井さんから犬のことで成底さんに聞けばわかると聞きまして」
「犬の件…。あぁ、あの件か。失敬、失敬、いろいろ私も忙しくてな。すっかり忘れておった。君が犬を見つけたのかね?」
「そうです。やはりあなたが飼い主ですか?」
「そうだ、私が犬の飼い主だ。今晩、時間はあるかね?」
「はい、あります」
「夕方に、私の滞在しているホテルまで来てくれんか」
* * *
仕事中も翔次郎の飼い主のことが気になって、身が入らない。
定時きっかりに会社を退社し、成底の滞在しているホテルへと向かった。
ロビーで待っていると、髪の長い赤いスーツを着た女性が話しかけてきた。
「失礼ですが、金城様ですか」
「そうです。あなたは?」
「私は成底の秘書です。では、上へあがりましょうか」
そう言うと、秘書はヒールをカツカツと鳴らしながらエレベーターへ向かって歩いた。
慌てて追いかけて、ちょうど降りてきたエレベーターに乗り込んだ。
「どうして、私が金城だとわかったんですか?」
「雰囲気ですかね。この場所に違和感があるといいますか…」
雰囲気?違和感?庶民的ってことか。レベルが違い過ぎると腹も立たないな。
エレベーターは、最上階のバーに到着した。
秘書の後についていくと、先には小太りの年配男性がビールを飲んでいた。
「金城様をお連れしました」
「おっ、来たか?じゃ、ちょっと外してくれ」
秘書はテーブルから離れていった。
「はじめまして、私が成底だ」
「はじめまして、私は金城と申します」
「座りたまえ、何か飲むかね?」
「いえ、お話しだけ聞かせて頂ければ」
「まぁ、せっかくだから飲んでいきなさい。ビールでいいかね?」
「あっ、はい。ではお願いします」
成底は、バーテンダーにビールを注文した。
「君はどこまで聞いているんだ?」
「どこまでと言いますと?」
「犬の件だよ。白井は何と言ってた?」
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