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翔太は犬に「翔次郎」という名前をつけて、とても可愛がった。
警察に拾得物届を提出したが、飼い主からの連絡は無い。
そして、翔次郎が金城家に来てから、3か月が経過した。
「翔太、今日で翔次郎はうちの家族になるよ」
「家族?もうとっくに家族じゃない」
「うーん、なんていうか権利上のことだ。今日が翔次郎の誕生日になるんだ」
「そうなの?じゃあ、お祝いしないとね」
ピンポーンと、玄関のベルの音がなった。
インターホンの画面を見ると、スーツを着たセールスマン風の男が立っていた。
「夜分遅くに申し訳ありません。金城様にお話がありまして、訪問させて頂きました」
「うちは、セールスお断りですよ」
「いえいえ、セールスではありません。お宅で飼われている犬のことで、お話がありまして」
「犬?どこで犬の話を聞いたんですか?」
「それは、少し人目のないところでお話しさせて頂けたらと」
玄関の扉を開けて、セールスマン風の男を中に入れた。
男は対面すると、すぐに名刺を差し出してきた。
「私、白井と申します。はじめまして」
「ご用件は、何でしょうか?」
「単刀直入に申しますと。金城さんがお世話になっている犬の飼い主が私です。長く預かって頂きありがとうございます」
密かに聞き耳を立てていた翔太が、翔次郎と共に現れた。
「翔次郎はうちの家族だ、もう帰らないよ」
翔太は泣きそうな顔をして言った。
「せっかく来て頂いたところ申し訳ないのですが、翔次郎は既に私達の家族です。お引き取り願います」
「オスカー、覚えているか?私だ。さあ、こっちにおいで」
白井が翔次郎に話しかけるが、翔次郎は白井に近づこうとしない。
それどころか、白井に対して吠え出した。
「あなた、本当に飼い主なんですか?全然、懐いてないじゃないですか」
「いや、久しぶりなので少し警戒しているんじゃないかと」
「とにかく、私はお譲りする気はないのでお引き取り願います」
「金城さん、待ってください。もう少し、お話を…」
「お話しすることは、特にありません」
強引に白井を玄関から追い出した。
「お父さん、翔次郎取られちゃうの?」
翔太は翔次郎を抱きしめて、悲しそうな顔をしている。
「いや、そんなことはさせないよ。翔次郎は家族だから、ずっと一緒だ」
「お父さん、ありがとう」
翔太はとても嬉しそうに笑った。
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