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仕事を終えて家に帰ると、由香里が待ち構えたように玄関へ走ってきた。
「あなた、話があるの」
「話?どうしたんだ?」
「今日ね、白井さんがいらしたの。主人がいないことを告げたら、奥さんに話があると言われて話を聞いたの」
「ふーん、それで」
「そしたら、翔次郎を売ってくれと言い出して」
「えっ?」
「それも、50万円も出すっていうのよ」
「50万円!それは大金だな」
「そう、だから主人に相談しますと言って、とりあえず帰ってもらったんだけど」
「50万か。病院や食費の代金を差し引いても、悪くない金額だな」
「そうでしょ。これから翔太の学費もかかるし、本当の飼い主のところに戻るなら悪い話じゃないなと思って」
「うーん、確かに」
「私は返すべきだと思うの。翔太には本当の飼い主のところに戻るのが、幸せなことだと伝えればいいわ」
「うーん、そうか。ちょっと考えさせてくれ」
夜中にソファに座りながら、翔次郎のことを考えた。
50万円…。
なかなかの大金だ。
ただ、翔次郎を白井に返して本当にいいのか。
3か月後に現れたということは、ずっと探していたということは間違いない。
それほど、大切にしているということだ。
しかし、翔次郎は白井に全然懐いている素振りがない。
3か月ぶりとはいえ、あそこまで懐いてない飼い主というのもおかしな話だ。
「考えても仕方ないな」
白井に、直接聞いたほうがよさそうだ。
* * *
待ち合わせの喫茶店に入ると、白井はすでに到着していた。
「これは金城さん。わざわざ連絡ありがとうございます」
「いえ、私もいろいろ伺いたいことがあったので」
「そうですか。なんでも聞いて下さい」
「翔次郎は、オスカーという名前だったんですか?」
「えぇ、そうです。小さいころから可愛がっていた、まさしく家族です」
「それにしては、慣れないような感じがしましたが」
「いや、それはだいぶ月日が空いたので。一緒に住めば思い出すと思います」
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