あの日の君に、ごめんなさい

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俺と健吾は幼馴染だった。 健吾は泳ぐことが大好きで、俺は泳げないから、いつかプールで一緒に泳いでみたいなと、泳ぎを教えてもらう約束をしていた。 同じ高校に入って、健吾はいじめられるようになった。理由はよく覚えていない。しょうもないことだった。 日に日にエスカレートしていくいじめに、最低な俺は巻き込まれないようにと学校では健吾を無視した。 頬に大きな青あざを作っていても見ないふりをした。靴やかばんに落書きがあっても知らないふりをした。 知らないふりして、学校以外ではいつも通り仲良くつるんだ。 全ては自分が次の的にならないように。 ある日、いじめの中心的存在のやつらに、「あいつにごみを浴びせてこい」と言われた。渡されたゴミ箱の中身は残飯や汚水が入っていた。信じられなくて、クスクス笑うそいつらを呆然と見つめた。 『これをアイツにぶちまけたら、お前のことだけは絶対見逃してやるよ』 悪魔のような囁きに唆された悪魔みたいな俺は、恐ろしくて、結局それを健吾にかけた。 ぽたぽたと髪の先から汚水を垂らしながら、『イチ、なんで…?』と呆然と呟く健吾のあの顔が、未だに忘れられない。 あの日、俺はあいつを殺した。アイツの心を殺したんだ。 健吾がたった一人、幼馴染の俺だけを信じていたのを知っていた。知っていたくせに、俺はその心の依代をぶち壊した。
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