あの日の君に、ごめんなさい

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それから一か月くらいたった二年生の夏、夜遅くに健吾から一本の電話が入った。 『死にたい』 か細い声でそう言った。「何言ってんだよ」俺はなんていえばいいか分からずにそう返した。 『イチには分かるわけねぇだろ。俺の気持ちなんて』 そう言われればおしまいだった。俺は分かってなどいなかった。わかろうとしなかった。 『イチ、バイバイ』 そんな声と共に、水の中に潜るような、どぽんという音が耳を貫いた。 俺は夢中になって家を抜け出し学校へ走った。走って、走って、プールサイドへと駆け寄った。 イチは昔から泳ぐことが好きだった。 『水の中に沈んでいく時の、あの、光がどんどん遠ざかっていくような感覚。ぷくぷくと零れる気泡の煌めきが綺麗で大好きなんだ。だから俺、死ぬときは水の中がいいなぁ。どんなに苦しくても、最後は綺麗なものに囲まれて死にたいんだ』 そう言っていたのを覚えていたからこそ、俺は真っ先に学校のプールに向かった。
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