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今でも忘れられない。
波に揺られて揺蕩う携帯。
プールの真ん中で浮いている小さい背中。
目に痛い月明かりがそれらを照らしていて、その日は雲一つない満月の夜だった。
――そう、今日みたいに。
「あのあと俺は逃げだした。見なかったことにしたんだ、お前を。今でも苦しんでる。あの記憶が、お前の声が離れない」
今でも悔やんでいる。
嘘をついたこと、見捨てたこと、見ないふりをしたこと。
どんなにたくさんの命を救っても、お前の命は救えない。
「そうか、ごめん。ごめんな」
ずっと俺の事待ってたんだな。ずっと俺との約束を果たすために、七年間、ここで毎年、夏に。
健吾がゆっくりとプールの中に入っていく。
プールの真ん中で健吾がゆっくりと振り向いて、にこりと笑いながら手を差し出してきた。
「イチ」
おいで、と笑う。
ぴちゃん、とどこかで水の音がした。
「今、償う」
俺は迷うことも無く、プールの中へと足を進めた。
――ぼちゃんっ。
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