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カンナは何気に親指と人差し指でそれを撮み目の高さにあげて、近付けたり遠ざけたり覗き込んだり、角度を変え目の大きさまで変えてじっと見つめた。
「これ。私のと似ているわ」カンナは呟きながら机の上の木箱に手を伸ばした。細かい花の模様が一面に彫刻され、いろんな色で着色された鮮やかな木箱は小学校の卒業作品で、箱を開けると蓋に四角い鏡が着いていて右にオルゴール、左にちょっとした空間があり赤い小袋が入っていた。
カンナはそれを指先で撮んだ。小袋は口を紐でぎゅっと結んであったのだけれど、カンナはそれを緩めるとひっくり返して中身をそっと手の上に載せた。まさしくキラキラしたスーパーボールがコロンと転がったが、小さな球にカンナの大切な思い出の一つが込められていた。
「やっぱり同じね。懐かしいわ。もう何年も見ていなかった。あの頃を思い出すわ。そう言えば……。あの時の男の子、どうしてるかな。あの時ぽっきりの意地っ張りの男の子」
カンナはくすりと笑って手の上のスーパーボールと紙袋に入っていたスーパーボールを机にそっと並べて置いた。
カンナは人差し指で男子のスーパーボールをちょんと押した。
そう。これはカンナがまだ小学校一年生で、母と姉と三人でお祭りへ出掛けた時の話。
カンナは買ったばかりの浴衣を着ていた。白地に淡い色のピンクや黄色。水色の蝶が大きく描かれたものだったけれど、カンナも愛らしい蝶のようにはしゃいだ。
カンナは人込みを上手く避け姉と手を繋いで歩きつつ、茶色の瞳に映る店を興味深く眺めていた。すると突然カンナが止まった。
「ねえ。これやっていい?」
カンナの目に留まったのは、水の上をごみごみ流れる多彩なスーパーボールだった。
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