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カンナは姉の手を放し少し前屈みになって流れに任せたスーパーボールを眺めた。黒髪に映える金細工の蝶の簪。羽の下には二本のチェーンが垂れ、紅玉と鈴が各々に施されていた。鈴が「ちりん」と心地よく鳴って揺れた。カンナは、「あれがいい」と言って、しゃがんだ。カンナの視線は透明できらきらしたラメ入りのボールを追っていた。
「カンナは確か、金魚が欲しかったのよね?」姉が「クスッ」と笑った。
「金魚も欲しいけど……。これも欲しいの」
「ねえ、カンナ。お祭りの約束を覚えてる?」姉がカンナの横で優しく尋ねた。
「うん。買うのは一つだけって約束。ちゃんと覚えてる」
「じゃあ、どちらにするの?」母と姉は微笑んだ。すると紅玉がゆったり揺れた。
「あのね。これにするの」カンナはあっけらかんと返事した。
「あの、きらきらしたのを取るの」カンナはワクワクしてサングラスをかけ、箱に座った男の人にこう言った。
「おじさん。掬うの下さいな」母からお金をもらうとカンナはそれを渡したのだけれど、黒く焼けた毛深い男の腕にカンナは一見釘付けされた。母と姉は顔を見合わせ笑いを堪えた。なぜなら、
「おじさんの手、熊みたい」と、呟いたからだ。男はサングラスを外し、
「おじさんじゃない。おにいさんだっ! まだ二十歳なんだ」ほんの少し憤ったがカンナの可愛い顔に負けた。するとカンナは首を傾げ、
「だって、学校の制服着てないもの。だからもう、おじさんよ」
どうやら高校生までがカンナの言うお兄さんの認識であり対象だった。
カンナは袖を捲って掬う構えをした。
「来るかな、来るかな、今かな、今かな」
カンナは目が回りそうになりつつも、その瞬間を逃さなかった。
「ここよ!」カンナは旨い具合にきらきらボールを一つ掬った。男は目を丸くし、「ほーっ」と、呟いた。
「あと一個欲しいな……」
慎重に慎重にまた一つ掬い上げた。まだ紙は破けてなかったが次は掬えないだろう。カンナは思った。そして、「これでおしまい」と、男に渡すと、苦笑いしながらビニール袋へ入れた。それから紐で閉じ黙ったままカンナへ返した。カンナは夜空へ持ち上げて、「わぁーっ」と、感激した。ところが袋の向こうに歪んだ顔が見えた。「あれ?」カンナが横から顔を出すと知らない男の子が袋を覗き込んでいた。
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