11人が本棚に入れています
本棚に追加
カンナと同じくらいの年齢だろうか……
「いいな。いいな」男の子がしげしげ眺めていた。驚いたカンナは思わず袋を後ろへ隠した。
「これは、私のよ」カンナは威張った。
「だって。俺もそれ狙ってたんだ」
男の子の瞳は羨ましそうにカンナを見つめた。
「だって。それ欲しい」
「あげないもん」カンナは外方を向いた。
ワサワサした人通りに、「カラン、コロン」と、下駄が鳴った。相変わらず男の子は微動だにせずカンナを熟視した。カンナの頬が膨れた。
「これ。私のだから」カンナは小声で呟いた。すると優しい姉が屈んで囁いた。
「ねえ、カンナ。それ一つ差し上げて。きっとカンナと同じ気持ちよ」
「嫌よ」カンナは後ろへ一歩下がった。「カンナ……」姉は悲しい顔をした。そしてもう一度、「差し上げて」と、言った。
カンナは心底あげたくなかった。しかしながら姉に諭され渋々袋から一つスーパーボールを出した。男の子は胸のもやもやがすっ飛んでピョンと跳ねた。嬉しそうに小躍りする男の子にカンナはため息をつき暫く眺めていたが、「いいわ」遂にあげる決心をした。
「これ。あなたにあげる。でもね、絶対大切にするって約束して。そうじゃなかったら嫌よ」
「うん。約束する。大切にするから」男の子はせかせかした。
「それ、本当なの? じゃあ指切りげんまんよ」
カンナは小指を前に差し出したけれど、どういう訳か彼は黙ってしまい一向に指を出さなかった。
「どうしたの?」カンナが尋ねると、「そんなの。恥ずかしいじゃん」男の子の顔がほんのり赤くなった。
「約束できないなら、あげないわ」カンナが潔く言えば、「分かったよ」俯きながら男の子は態とぶっきら棒に小指を出した。小指の先が微かにカンナの指に触れた。それから小指と小指を絡み合わせ、
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます……」二人で歌った。男の子の胸は酷くドキドキして絡んだ小指を茫然と眺めた。
最初のコメントを投稿しよう!