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「ねえ。指を離していい?」淡々とカンナは尋ねた。それからスーパーボールを三本の指で撮むと、男の子の手のひらにコロンと載せた。
「あーあっ。せっかく掬ったのに。でも約束だから」カンナは名残惜しそうにそれを見つめた。一方男の子は緊張のあまり明後日の方を向いて、「あああ、ありがとう」と、言った。
「私、空にいないわ。へんなの……」カンナは「クスッ」と笑った。
あれから10年経ったけれど、男の子は今、どこで何をしているのかしら……。そんなことを思い浮かべながらカンナはスーパーボールを鞄へ仕舞い、さっと階段を下りて台所へ行った。母が丁度お茶を入れていた。
「カンナは、抹茶餡蜜も買ったのね」
「だって桜餡蜜が三つしかなかったの。それに……。『買って下さいっ』て、書いてあったわ」
「ほんとかしら?」
母は微笑みながらカンナの席に番茶と桜餡蜜を置いた。
「カンナはこれが食べたかったのでしょ?」
母の席には抹茶餡蜜が置かれていた。「まあね」カンナは微笑んで湯呑を両手で持った。
「あら。茶柱がたっているわ。何かいいことありそう……」カンナは湯呑を口に当てゆっくり茶の香りを味わった。
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