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錦木高校生
翌朝。カンナの利用してる路線バスは珍しく混んでいた。と言ってもカンナが乗車する時間はそこそこ混み、席に座れないのが常であるがどういうわけかこの日は特にいっぱいで奥側へ進めなかった。しかしながらバス停ごとにお客が乗車する。カンナは、「どうか酸素欠乏症になりませんように」と、願った。
カンナは僅かながら奥へ詰めて立ち乗りした。そして傍の座席に手を掛けたのだけれど、平然と本を読む男子高校生にハッと視線が向いた。カンナは彼の集中力に感心したばかりか不思議と見とれた。すると、「カンナ」って、小さな声で呼ばれた。人込みで気付かなかったが一年生の時、同じクラスだった親友、美里がカンナの隣に立っていた。
「あっ、おはよう。自転車で登校しなかったの?」カンナは小声で囁いた。
「そうなのよ。実はパンクしちゃってさ。ねえ、いつもこんなに混んでるの?」
「そこそこね。でも、今日は特別に混んでるの」
「そっか。ああ。運が悪かったわ」美里は少々落胆した。
バスは進んだり停まったりを繰り返していたが遂に赤信号で停車した。
「ねえ。カンナのクラスにモテモテ男子がいるでしょ?」
「モテモテ?」カンナは一瞬考えた。
「あっ。もしかして仰々しい人のこと?」カンナは「クスッ」と笑った。
バスのエンジンが吹いて発進した。
「仰々しいって……?」美里は恍けたカンナに釣られ思わずクスクス笑ったのだけれど…… 唐突にバスが右折して、「おっととととととっ!」カンナはバランスを崩し、肩に掛けていた鞄を読書中の男子高校生の頭へ見事に、「ガツンッ」と、ぶつけた。そのせいで文庫本が足元へ落下した。慌てたカンナは本を拾おうと体を屈めかけたのだけれど一難去ってまた一難。今度は急にバスが停まったから彼の膝上に上半身ごと乗っかった。まさにズリこけた。
「いてっ!」
「えっ、うそ?……」
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