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カンナは直ぐに起き上がろうとしたのだけれど、揺れ動くバスにどうにも力が入らなかったばかりか悪いことに体重が片側へズルッと寄った。男子高校生の両腕は鋭敏に反応しカンナを両手で押さえた。お蔭でカンナは前の座席の間に挟まらずに済んだものの彼の胸がカンナの背にピタッとくっついた。つまり男子高校生の両腕がカンナを守った結果そうなった。彼の反射神経は大したものだった。
「体が熱いわ。いえ、ごめんなさい」カンナはうつ伏せのまま呟いた。
「参ったな……」カンナを押さえながら男子高校生の小さな声が漏れた。
美里はどうにか笑いを堪えカンナを起こしたがやはり限界だった。
「だ、だ、大丈夫なの?」美里の目と声は明らかに笑っていた。
「どうしよう……」珍しくカンナが困惑した。美里は笑いながらこう言った。
「それはですね。謝るしかないわよ」
「ですね。その、えっと……。二度も失礼なことしてごめんなさい」カンナは汗顔の至りだった。実に小さくなって座席の陰に隠れたかったけれど、何はともあれ落とした本を拾って男子高校生へ謝った。彼は何事もなかったように平然と続きから読み始めた。この時カンナは相当気分を害したに違いないと思った……
「そうだった。美里。助けてくれてありがとう」カンナは感謝した。
「どういたしまして。でもね、すっごく面白いもの見せてもらったから」美里は「クスクスッ」と笑い、更にこう言った。
「もう一回くるわよ。だって二度あることは三度あるって言うじゃない? ほらほら、カンナーっ、覚悟~!」
美里がちょっと力入れて脅したせいか、それとも声が少し大きかったせいか男子高校生が「ハッ」とした顔でカンナを見つめた。
「ああ……。今のはちょっと言いすぎちゃったわ」美里は焦って訂正したのだけれど、どういうことかカンナは男子高校生に穴の空くほど見つめられた。きっとこの上なく怒らせたに違いないとカンナはあたふたしたが、どうも男子高校生の様子が変だった。挙句に、
「あんた。カンナって名前なのか?」と、質問された。
「えっ? そうですが……」カンナは瞬きを忘れ彼を見つめた。
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