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「私の名前がどうかしたのですか?」尋ねるつもりが余りにまじまじ見つめられていたから、「そんなに見ないで下さいな」カンナはとらえどころなく俯いた。
男子高校生は穏やかにこう言った。
「まるで花のようだ」
「花? えっと、鼻?」雲をつかむような言葉にカンナは目を丸くした。しかしながら器用に人差し指で鼻先を指し別の手は花を模った。どちらにしても間違ってない。
「そう。こっち」彼は指が疎らになった方を指した。
「ところで君の、カンナの誕生日はいつ?」混雑したバスのはずがカンナは男子高校生と二人で一空間にいる錯覚を起こした……
カンナの記憶が蘇る。そこは真夏の海。子供がわさわさ騒ぐ声がする。
「私の誕生日は7月なの」小学校五年生のカンナが出会ったばかりの男の子に楽し気に答えている姿……
男子高校生は鞄のポケットへ本を仕舞った。
「会ったばかりなのにいろいろ聞き過ぎた。驚かせてごめん」
「会ったばかりなのに……」カンナは無意識に鸚鵡返しした。
男子高校生は茫然とするカンナから目を離してため息をついた。彼は凛々しい青年でまた学ランがよく似合っていた。ちなみに制服のポケットに学年を表す四角い赤色のバッチがついていたが、色からして一年生である。緑色が二年生、青色が三年生といった具合に錦木高校は決まっていた。
「夏になると家の庭に赤い花が咲く。カンナという花だ。僕はその花を気に入っている」それはカンナへ何かしらの思いを込めて伝えたかった言葉だろうか。しかしながら独り言にも思えた。
「次は東部学園高校前……」
バスのアナウンスが流れ、ぼーっとしたカンナに美里がトンと押した。
「カンナ。学校だよ。ではイケメンさん。御機嫌よう!」
カンナの代わりに美里が笑顔で挨拶をした。
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