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校門を通り抜けると左右に桜の木が連なる。生徒達はそれぞれの思いで薄桃色の花弁絨毯を歩いていた。
「ああ、ビックリした! カンナったらめっちゃ笑えるわ。隣の人がさ、声を殺して笑っていたの。知ってた?」美里は爆笑である。
「そ、そうだったの?」カンナは頬を赤らめ恥ずかしさで俯いた。
「そうよ。それでさ。あのイケメンさんは憧れの錦木高校生よね。とっても素敵な人だった。こうなったら彼とお友達にならなくっちゃ!」
「そんなの無理よ。とても恥ずかしくて……。声を掛けられないわ」
春の風に煽られ二人へ花弁が雪のようにひらひら舞った。
「いいな。いいな。私もバス通学に変更しようかしら」美里はワクワクしながら空を見上げて楽し気に笑ったけれど、カンナは反対だった。寧ろバス登校し難くなっていた。「明日からどうしようか……」新たな悩みが出来た。そんな繊細な感覚をまるで察しない美里は、
「カンナ。またね」気分爽快に手を振り昇降口で別れた。「うん」カンナも軽く頷き手を振った。
「エリートの錦木高校生だった……。明日は彼に会いませんように。でも『カンナ』の花を気に入ってる人。会ってもいいかな……」カンナは小さな葛藤を胸に秘めて靴を脱いだ。それから靴を仕舞ったが何とも一連の行動がぎこちなかった。妙な行動を眺めつつ同じタイミングで靴を入れたクラスメイトがいた。
カンナは、「お早うございます」と、チラッと顔を見て淡々と通り過ぎた。
「おはよう」男子生徒はカンナの姿を目で追いながら呟いたものの、素っ気ない態度が気に障った。カンナが階段を上ると間もなく、「おいっ!」と、呼んだ。決して小さくなかった彼の声だったけれど、カンナは気付かずそのまま三階まで駆け上がった。
「マジか。この俺が無視された……」
「多智花、お早う」後ろから杉田が肩を叩いた。
「昨日。あの後スーパーボールを追いかけて返してもらったんだろ?」当然彼の手元にあると思って尋ねた。
「いや。まだなんだ」覇気がない返事だった。
「はっ? 今ここにカンナがいたよな。で、何も言わなかったのか?」
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