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スーパーボール
四月七日。辺り一面咲いてた桜の花が、ほろりほろりと散り始め、高校二年生の新学期が始まった。
カンナは大学進学を目指すクラスだった。このコースは全部で五クラスあった。クラス編成に意図はあるだろうけれど、中学から進級する度に編成されて少なからず胡散臭く思う生徒はいた。カンナはどちらかと言えばワクワクしていた方であった……
カンナは新しい教室に入り指定された席に鞄を掛けた。幸か不幸かずっと一緒だった親友と別々のクラスになって少し心が萎んでた。
「もう女神さまはどこへ行ったのよ。でもこの席は抜群にいい」カンナの席は窓側だった。窓から青い海が眺められ階も上がってぐっと視界が広がった。そのうえモサモサした大きな植え木がなかったから、まさに特等席と言えた。
「友達と引き換えだったかも……」カンナは机に両肘をついて無意識に呟いた。
そんなカンナと対照的にクラスの一角がガヤガヤ騒がしい。
「また俺は多智花と一緒かよ」同じクラスだった猪一颯太がぼやいた。
「はっ? いいじゃねぇか」茶髪の彼の掌に猪一の拳が触れた。
彼の名は多智花一と言ったが、俗にいうツッパリ男子だった。
多智花は昨年父親を亡くし母の実家へ引っ越して来たばかりだが、目立つ頭髪と甘いルックスに自然と女子が群がった。以前在籍していた高校でも同じだった。だから傍へ寄らない女子がいると無性に構いたくなるようだ。つまり一人景色を眺めるカンナへ多智花の視線が止まっていた。
一時間目は始業式。二時間目は学活……。
出席番号順に自己紹介が始まると特定の男子に人気が集まった。不必要にあれこれ女子に質問されていたのだけれど、カンナは全く興味がなかった。だからこの時も海を眺めていた。となると多智花にはカンナが妙に憂う乙女に見えたからますますイライラしたのである。
「あいつ。気に入らない」着席した多智花はどうにかしてカンナを振り向かせたかった。
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