§ 第1章 二つの波 §

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 一日の授業が終わり放課後になると生徒は部活動へ移動した。教室は殆ど人がいない。相変わらずカンナは窓から外を眺め、景色の色を楽しんでいた。すると、 「いたっ!」硬くて小さな物がカンナの背に強く当たった。 「コト、ポーンポン……」と、床に数回跳ねる音がしたが、カンナはそれが何なのか音から判断した。 「スーパーボールだわ……」大方男子がキャッチボールでもして遊んでいるのだろうと思っただけで、振り向きもしない。多智花は当然苛立った。  彼はカンナを目掛けそこそこの力でスーパーボールを(ほお)った。 「いたっ!」  今度は後頭部に当たりカンナは頭をそっと撫でた。普通なら怒る。でもカンナは振り向かなかった。多智花は意固地になり眉間に(しわ)を一本よせて思い切りカンナの右の肩甲骨(けんこうこつ)に当てた。ちなみに多智花は野球部所属。ピッチャーじゃないけれど球の扱いは素人でもない。もしそこに神がいたのなら即、このように宣告されるであろう。「一生女子に恵まれない罰」  それはさて置きどんなに優しい仏様でも三度目には怒る。そんな(ことわざ)があったけれど、とうとうカンナは後ろを向いた。ある意味アイドル的存在の多智花はニヤッとした。それから彼はスーパーボールを床と天井に一回ずつ当てると片腕を伸ばしてギュッと掴んだ。そして彼は意地悪くにやけた。  ところでカンナは女子である。こんな仕打ちをされたら男子だって、「いい加減にしろ」とか、「ふざけるな」って、激怒するだろう。けれどカンナは彼の顔をチラッと見ただけで終わった。 「はぁ? あいつしぶとい……」多智花はにやけた。それでおしまいにすると思いきやカンナが反抗しないから図に乗ってボコボコぶつけ出した。 「おい、多智花。女子に何やってんだよ」トイレから戻りハンカチで手を拭いていた猪一が慌てて止めさせた。 「ふん。あいつ、何も言わないんだぜ。神経あるのかよ」 「待てよ。痛くないわけないだろ。自分がやられたらお前怒るじゃん」同じくトイレに行っていた杉田も口を挟んだ。 「そりゃそうだ。俺はめっちゃ怒る。じゃあ、止める」  
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