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「多智花さ、性格変えろよな」そう猪一に注意されたけれど変わりそうもない。なぜなら彼にその気がないからだ。
多智花はスーパーボールを床に数回打ち付けた。
一年生の時に同じクラスだった杉田 亨は正義感の強い生徒で、転校したばかりの彼を何気に面倒見ていた。
多智花は女子だけでなくいろんな悪戯を頻繁にしていたが、杉田はその度に注意をして問題を大きくさせなかった。そんな彼らなのだけれど杉田は多智花を嫌ってなかったし、多智花も杉田を好いていた。
杉田 亨。本日学級委員長に任命された。
「多智花。女子に謝って来いよな」
「あの。杉田君。私は気にしてないから」カンナは席を立った。海はキラキラ輝き静かにこっちを眺めていた……
「何でだよ。面倒くさい」多智花はスーパーボールを杉田へふっと投げた。
「当たり前だ。ボコボコぶつけたんだから謝れよ」片手でキャッチした杉田は、そう言いながら、ものの見事に彼の額へ、「バシッ」と、命中させた。頗る早い。流石野球部エースだ。ボールは跳ね返り床に当たり、椅子に当たりその行方はカンナの机に掛けてあった紙袋の中へ、「スポッ」と、入った。
「いってーっ! 杉田、力入れ過ぎだ!」
「いや、十分加減した。まあ多智花が女子にやったのより軽いはずだ」
「分かった。謝ればいいんだろ?」彼がそう言った時、カンナが突然席を離れたから彼らは焦った。
「やっちまったな。彼女を相当怒らせた」猪一はカンナの去った方を向いて呟いた。実はカンナはあることを思い出した。それで荷物をガバッと掴み顔色を変えて急ぎ足で教室を去ったものだから、それが怒った態度に見えたのかもしれない。
およそ三秒の沈黙の後、彼らは顔を見合わせた。不意に、
「嘘だろ。あいつ俺のスーパーボールを盗んだ……」今度は多智花が青くなった。
「おい。盗んだとは言い過ぎだろう」猪一は伸びをしながら自分の席へ向かった。
「返して欲しかったら、謝るんだな」杉田が真剣に呟くと、
「あんなのくれてやればいいじゃん」猪一が荷物を持ちながら笑った。
「それはできない。駄目なんだ」
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