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「へえ。何で?」二人が同時に興味津々で質問したものの、多智花は呆然と立ち竦んでいた。こんな姿は珍しい。どうやら予想外な訳がありそうだ。
「どういう理由があるのか知らないが、とにかく謝るんだ」杉田は言い続けた。
「その前に取り返す」妙に慌てる多智花だ。
「お前何言ってんだ。順番が違うだろ?」杉田が言い終わらないうちに、多智花は荷物を纏めて走った。つまり大急ぎでカンナを探しに行ったわけである。教室に残された二人の責任ではないけれど、猪一も杉田もため息をつきながら多智花とカンナの関係を懸念した。
「さてと。部活動だな」
彼らも荷物を持ち廊下に出たが、
「あっ、そうだ。多智花が野球部を退部するらしい。で、テニス部に入部すると言ってたが、聞いてるか?」猪一はポケットから携帯を出して今後のスケジュールを確認しながら呟いた。
「決めたか……。あいつは小学校高学年からテニスを始め、中学で活躍して何度も表彰されてたようだ」二人は階段を下りた。
「で、なんで野球部に入部したんだ?」
「親父が野球部だったからだ。本人はその供養だと言っていたが……」
「でもあいつ。レギュラーじゃん。野球うまいじゃん」
昇降口に大きな靴が二足並んだ。
「猪一知ってるか? あいつは時々テニスの練習をしてた。昼休み時間にテニス部とコートにいた」
「で、そんなに熱心な多智花がなぜ野球でもテニスでもないスーパーボールを追いかけたんだ?」猪一がおどけた顔をした。
「ははははっ。俺に理解できないな」杉田は猪一に軽く手を振ってグラウンドへ向かった。
あれからカンナは夢中で昇降口へ走った。彼らのお蔭で母に頼まれていたお遣いを思い出せたのである。
「スーパーボール、サンキュー。本当にお団子に見えたから……」ぶつぶつ呟き外の階段をササッと降りて、真っすぐ校門を潜りバス停まで一気に走った。
「お遣い忘れたら大変だったわ。天国の姉が悲しんで夢に出てきそう」
カンナは口から荒い息を出し、肩で呼吸をしながらバスの時刻を人差し指で追った。
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