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公園に沿って少しだけ右へ進むと一般的に「なまこ壁」と言われる白と黒の幾何学模様が目に映る。それが知る人ぞ知る、老舗「勘太郎」だった。カンナは降車する直前に足首を回し始め数十メートルの距離をせいぜい走ろうと準備していた。いよいよその時が来た。
カンナは歩道に足が着くやいなや全力疾走したものの、まさか男子高校生が彼女を、いやスーパーボールを追いかけて降車していたと微塵も思わなかったであろう。彼もまた突っ走った。
カンナは店の手前で歩幅を緩めた。しかしながらなにも多智花まで速度を落とすことはなかった。喉から手が出るスーパーボールは目前だったはず。それなのに彼はカンナの名を呼べなかったばかりか、ネジの切れた玩具のようにぐぐっと停止し単に目視しただけである。
カンナは呼吸を整えガラスのドアの前に立った。四角く刈られた街路樹とブレザー姿の女子高校生が絵のように映った。
「あいつ店に入るのか……」多智花の片手が額に掛かり「マジか……」と呟いた。ドアがスーッと開くと、「いらっしゃいませ」物腰柔らかい店員の声がした。
店に入って左側に坪庭が見えた。小さな和庭がカンナはお気に入りだった。
カンナが奥へ進むとガラスケースの中に上品な和菓子が歌うように並んでいた。右端から海苔で巻かれた団子やみたらし団子、餡団子。その横にルミカップに入ったふかふかの黄な粉餅と、ぷるんとした水まんじゅう。どれも美味しそうだったがカンナの買うものは最初から決まっていた。カンナはこの時季ならではの桜餡蜜を買いたかったのだけれど残念無念。「あらっ」と、心で叫ぶと人差し指を口へ当てた。実をいえばカンナは四人分欲しかったのであるが一人分足りない……
さて、その頃多智花は外でそわそわとカンナを待っていた。カンナにスーパーボールを当てたあの嫌らしい態度は一体どこへ消えたのか。その陰すらなかった。
多智花は鞄を脇に抱えながら今度はカンナのある行動が引っ掛かかった。仮に通行人がいたとしたら彼は全くもって怪しい人と勘違いされたであろう。店の手前を振り子のように往復して酷く落ち着かなかった。それでどうしたか。挙句の果てに店へ入る決心をした。ただ彼はこの店をよく知っていた。それもそのはず、ここは多智花の家だった。
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