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蝶谷君はドンドン自転車をこいでいった。たんぼのあぜ道を抜けて、気がついたら山道に入っていた。坂がきつくなって私は荷台から降りて、自転車を押す彼と並んでのんびり山を歩いていった。
「どこに行くの?」
「お父さんが教えてくれた内緒の場所。すっごい蝶がいるんだ。」
やっぱり蝶なんだ。と私が苦笑いしていると、着いたよ!と彼は自転車を草村に倒して藪の中に入って行った。男の子だなぁ、としぶしぶ私も藪へと入る。
しばらく藪の中に進むと、急に目の前が開けた。
湖だ。
「うわあ。」
あんまり奇麗な景色だったから、つい間抜けな声が出てしまった。
山の中に突然現れた湖は、学校の教室と同じくらいの広さで、銀のお皿のように表面がギラギラ輝いていた。覗きこめば、自分の顔が奇麗に反射する。
村にこんな場所があったなんて信じられない。
「すごいね。秘密の場所なんだ?」
湖から蝶谷君の方へと目を向けると、彼は思ったより近くにいた。肩と肩がくっつくくらいで、銀の麦わら帽子が耳元をこする。くすぐったいよ、と離れようとするけれど、蝶谷君はぐいぐいと私に近寄ってくる。
「奇麗でしょう?淵を見て。」
そう言って、蝶谷君は湖の淵を指差した。そこには蝶が数匹休んでいて、湖の水を飲んでいるように見えた。
「ここの水は美味しいんだって。だから蝶がよく集まるんだ。」
「そうなんだ。じゃあ研究もはかどりそうだね?」
「飲んでみるといいよ。僕も飲んだことあるけど、お腹壊さなかったよ。」
そう?と私は言われるがままに手を伸ばした。水に手を入れるとひんやりして気持ちがいい。もっと近くに、と体を前に動かすと。
水の中に何かいた。
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