第1章

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「ほら、もっと近くに行くといいよ。」  蝶谷君に促されて、もう一歩前に出る。  水の中がよく見える。透明で、透き通った水は苔むした底がはっきりと見ることができた。  湖の中では。  ドブネズミが死んでいた。 「ひゃああああ!」 「うわあ!」  とても奇麗な景色とは正反対のグロテスクをまともに見てしまい、私は叫び声をあげて後ろへとひっくり返ってしまった。  いつの間にか真後ろにいた蝶谷君も、私に巻き込まれて倒れてしまう。 「た、橘さんどうしたの?」 「ネズミが!死んでる!」 「見間違いじゃないの?もう一回見てみれば」 「嫌!絶対嫌!私ここから見てるだけでいい。水も飲まない!飲めないよ!」  そう言って蝶谷君の上をのしかかるように私は湖から遠ざかった。なんだよーと蝶谷君は口をとがらせるが、なんだもこうだもない。さすがにネズミが死んでる水は飲めない。怖い。無理。グロい。   「わ、私はここで見てるから、蝶谷君は適当に蝶採ってなよ。」 「えー?わかった。勝手に帰っちゃ駄目だよ!」 「帰らないよ。」  私がもっと喜んでくれることを想像していたのか、蝶谷君は不満そうに頬を膨らまして、それでも虫取り網をしっかりと構えて、湖の周りを走り回りだした。
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