第1章

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 バランスを崩したらしい。  頭が湖に入ると、まるででんぐり返しをするみたいに、バシャンと大きな音を立てて体まるごと湖に落ちてしまった。  一斉に、周りの蝶が飛び立つ。 「あっはっは、ばかじゃねーの!」  水に落ちた仲間を指差して、二人はゲラゲラ笑っている。  まるで上下さかさまに、雪が空に振りだしたかのように、ふわふわと蝶がが飛ぶ。  おかしい。 「蝶谷君。」  変だよ、と私は掴んだままの蝶谷君の腕を引いた。けれど彼はじっと跳び回る蝶を見つめて動かない。  おかしい。何かが変だ。そう。水に落ちた人が、顔を出さない。 「お、おい。大丈夫か?」 「透明だから見えないか?溺れてる?」  二人がそろって湖の中を覗き込む。水面はまだ少し波立っていたけれど、お皿のように平面に戻ろうとしている。泡が立つ音もしない。  覗き込んでいた二人のうち、一人の足元が滑った。 「わああ!」  空中でぐるぐると手を回して、また湖に落ちる。ボチャン、と大きな音がする。また蝶が飛ぶ。そしてすぐ静かになる。湖からは何の音もしない。蝶がどんどん増えていく。白と黒のまだら模様の羽をはばたかせて、空へ空へと羽ばたいていく。 「逃げよう!」  空を見上げたまま動かない蝶谷君の腕をもう一度強く握って、私は駆け出した。最後に残った大人は一人、淵で座り込んでいたけれど放っておくことにした。  湖からはどんどん蝶が沸きあがっていっていた。
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