湖畔の夕暮れ

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「あなた・・・、私が見えてるの?!」 「は?!」 思わず素っ頓狂な声が漏れる。 見えてるかって、何を言ってるんだろう、この人は。 もしかしてあれか、ちょっとイッちゃってる人か。 あー、それとも、まさか。 俺はさり気なく視線を動かして彼女の足元を見た。 よかった、足はある。 幽霊じゃない。 こんな夕暮れ、湖の桟橋にひとりぼっちだなんて、ちょっと怪しいじゃないか。 自殺した若い女性の幽霊かも、と思ったとしても俺が特別怖がりってことにはならないと思う。 「あなた、ここで何してるの?」 と彼女は言った。 抑揚のない声。 そして声以上に、目が冷たい。 せっかくかわいい顔をしてるんだから、もっと愛想よくすれば絶対モテると思うのにもったいない。 「何って、夕陽がきれいだから眺めてたんだけど」 「そう。夕陽が」 「なんだか吸い込まれそうだなー、なんて」 「吸い込まれそう?」 そう言って、彼女は初めて少しだけ微笑んだ。 ほらやっぱり、笑うとかわいい。 「君こそ、何してんの?」 「私? 私はね、道が繋がるのを待ってるの」 「・・・は?!」 はい、出ました、今日二回目の素っ頓狂な声。 やっぱりちょっとイタイ系か。 もったいないけど、あんまり関わりあいにならない方が良さそうだ。 「そうなんだ。繋がるといいね、道」 俺は当り障りのない返事と笑みを返し、その場を去ろうとした。 のに。
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