湖畔の夕暮れ

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彼女の腕がゆっくり上がって、俺の背後の湖を指さす。 見るな。 見ちゃいけない。 心はそう叫んでいるのに、俺は不可視の力に操られるかのように振り向いてしまった。 湖の彼方に今まさに落ちようとしている、大きな太陽。 その沈む夕陽を映し出す湖面に、ゆらゆらとオレンジ色の道ができていた。 太陽の光を反射して道のように見えていた、あの光の筋が本当に道になっていたのだ。 これが、彼岸へと続く橋? ゾクッとして、俺は辺りを見回した。 橋を渡ろうとして、どこからか地縛霊とやらが今しもゾンビのように集まってくるのではないかと思ったからだ。 けど、誰もいない。 そりゃそうか。 現実にそんなことがあるわけない。 彼女は自称霊能力者か、でなければタチの悪いイタズラ好きの変わり者だ。 「ねぇ、あなた」 彼女が一歩、俺に近づいた。 「私、これからも強く生きていくわ」 また一歩。 「あなたのおかげよ。感謝してる。ありがとう」 そしてまた、一歩。 彼女は確実に俺に近づいてくる。 何だろう、この胸騒ぎ。 俺は思わず、後ずさろうとした。 が、できなかった。 桟橋のギリギリ一番端、これ以上後ろがない角に立っていたのだ。 「だからあなたは、もう行かなくちゃいけない」 「え、行くってどこへ?」 無理やり笑顔を作って、できるだけ何でもないことのように問いかける。 すると彼女は、キッと口を真一文字に引き結んだ。 そして両手を付き出して、俺の胸を力いっぱい押したのだ。 落ちる!!! バランスを崩した俺は、踏みとどまれずに湖に落ちるしかない。
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