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と、思った。
ところが実際は、そうはならなかった。
俺は水に沈むことなく、湖面に立っていた。
そう、オレンジ色の橋の上に立っていたのだ。
驚いた俺は、しかしすぐに違和感を感じなくなった。
最初からここに立つのが当たり前だったような気がする。
何だろう、ものすごく心が安らぐ。
忘れていたもの、思い出そうと焦っていたもの、すべてがどうでもよくなってくる。
この道をまっすぐ、どこまでも歩いて行こうか。
そうしたら、どこへ辿り着けるんだろう。
彼女の言う『彼岸』とやらへ行けるのだろうか。
あれ、ちょっと待てよ?
ということは、それってもしかして・・・。
「この橋を渡れるチャンスは一度きり。さぁ、行くのよ」
俯いた彼女の肩が震えていた。
ああ、思い出した。
俺はここで溺れたんだ。
新婚の妻と旅行に来て、ここでふざけていた時に足を踏み外して湖に落ちて。
繋いでいた手は、あっさり離れた。
助けてくれと差し出す俺の腕を、彼女は取ろうともしなかった。
水中から見上げた揺らめく彼女は背を向けて、そして振り返らずに立ち去った。
その肩は、微かに震えていたっけ。
あの時俺は、足を踏み外しただけだったのか?
後ろから、背中を押されたんじゃなかったのか?
「君は…」
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