第1章

2/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
陽ももうすぐ傾く。 蝉が夏の終わりを告げるように僅かに鳴く。 渡り廊下に差し込むオレンジ色の光が少し眩しい。その光の中に腰掛け、本を読む彼女。 「…部活は終わりですか?」 近付く足音に気付いた彼女が、顔を上げる。 「いや、自販機に飲み物買いにきた」 ふーん、とたいして興味も無さそうに、読んでいた本に視線を戻す。 窓から入る微かな風が彼女の長い髪を揺らす。ページを捲る音が響く。 綺麗だな…、と思わず見入ってしまう。 「部活、戻らないんですか?」 声だけで彼女は尋ねる。 「…もう戻るよ」 その眼鏡の奥の瞳をこっちに向かせたいな、なんて思っても、彼女はやっぱり無関心だ。 名残惜しさを抱えながらもじゃ、と歩みを進めたとき後ろから凛とした声が響く。 「練習がんばって」 眼鏡の奥の瞳とカチッと目が合った。 おう、と返事をして体育館に戻る足取りは軽やかだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加