駄菓子屋の空き瓶

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駄菓子屋の空き瓶

 近所に駄菓子屋がある。  子供の頃はよく利用した店だが、一つ、いまだに気になることがあった。  店には安価で買える菓子や玩具が並んでいるのだが、古ぼけた棚の一番隅に置かれている瓶は、俺が知る限りいつも空っぽだった。  単純に、スペースの都合で空き瓶をそこに置いているだけ。  普通はそう考えるものだろう。実際、一緒に店に通ってた友達も、それとなく瓶のことを聞いてみたけれど誰もが無反応だったし。  だけど俺にとって、あの空き瓶はいまだに気がかりな代物だ。  その気持ちが年ごとに強くなって、ついに我慢しきれず、俺は久方ぶりに駄菓子屋へ足を踏み入れた。 「いらっしゃい」  店に入ると、店主のおばあさんが出迎えてくれた。お年寄りというのは概ねそういうものだと判っているけれど、本当に、最後に立ち寄ってからもう何年も経っているのに全然見かけが変わらない。 「あの…。昔からずっと気になってるんですけど、あそこの棚の端っこ、どうしてずっと空き瓶を置いてるんですか?」  そう問うと、おばあさんは驚いたように俺を見た。でもすぐにいつものにこにこしい顔に戻り、くるりと俺に背を向けた。 「はいはい。あの空き瓶ね」  精一杯つま先立ちになり、さらに目一杯手を伸ばして空き瓶を取ると、おばあさんはそれを抱えて俺に近寄ってきた。  棚に並んでいるのと同じ形の、一見何の変哲もない空き瓶。でもよくよく見るとこの瓶だけ、ガラスと蓋の厚みが他より随分とあった。  駄菓子を入れておくには重厚すぎる雰囲気の瓶。いったいそれを棚に置いておく理由は何なのか。
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