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手術、と呼ぶには幾分簡単すぎる、「自我」と「記憶」の「抽出手術」が始まったのは、翌日の夜も更けて久しい頃だった。
麻酔が打たれて間もなく、やや瞳が閉じてきた少女に「先生」は言った。
「さあ、それじゃあしばらくの間、お別れだ。」
「どれくらいかかるの?一時間?」
「いやいや、そんなに時間は要らないよ。ものの数分、カップラーメンを作るくらいだよ。すごいねえ、今のコンピューターは。」
「ふ~ん…」
少女は眠たげに続ける。
「…それで、私が出て行った後の『体』はどうなるの?もしかして、捨てちゃうの?」
「捨てるなんて、そんな。君の病気は珍しいからね。大切に残しておくよ。」
「…どうやって?カエルみたいにホルマリン漬けは嫌だよ?」
「いやぁ、どうだろう。多分、無菌室に安置されると思うけど。」
「ホルマリンは嫌だからね、先生。」
少女の願いは切実だった。「先生」は微笑み、言った。
「分かった。きれいに残しておくように、他の先生にも言っておくよ。」
「あはは…ありがとう。」
それ以降、少女はゆっくりと、夢の園へと旅立って行った。
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