#06 * 春雪

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恐れていた事が起きた。 こいつ、彼女さんにキスしてやがる。 しかも、告白する前だから、実質的には付き合う前に。 これは大問題だ。 直すべきは文章ではなく、お前の順序観念だと言ってやろうか。 弟を見た。 顔を真っ赤にして俯いている。 そうだよな、そうなるよな。 じゃあ何で俺にこれを見せようと思ったんだ。 「まぁ……細かい直しはあるが、それは帰ったら赤ペン入れてやる。」 「はい……」 「正書する時は、このAさんっての、全部直しておけよ。」 「はい……」 「あと、彼女さんの心が広くて、本当に良かったな、お前。」 「はい……」 「あと……」 そう、最も気になるのは、 「彼女さん、喋れないのか。」 「……うん。」 「そうか……そう、なのか……」 聴覚過敏症。 これがどんな病気かは名前から想像がつくが、 治ることはあるのだろうか。 弟の文章からは、彼女の愛らしさ、可愛らしさが滲み出ている。 恋は盲目状態なのかもしれないが、まぁ可愛い人なんだろう。 「不憫だな……」 口に出すつもりはなかったが、つい出てしまった。
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