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「じゃ、じゃあ、プレゼント取ってくる。ちょっと待ってて。」
バタバタと部屋に上がる雪の背中を見送ると、
また姫と二人きりにされた。
彼女はトントンと人差し指を合わせて、居心地悪そうにしている。
♪
うたちゃんはね うたこっていうんだ ほんとはね
だけど ちっちゃいから じぶんのこと うたちゃんってよぶんだよ
♪
その仕草で思い出した。
そう、うたちゃんだ!
幼稚園の年長の時、手つなぎ遠足で、俺が手をつないだ子。
長い黒髪で、肌が白くて、そうそう、あのうたちゃんじゃないか!
「うたちゃん?」
思わずそう呼んでみたが、彼女はギョっとしたように俺を見た。
「うたちゃん、だよね?同じ幼稚園だった。」
<……>
「覚えてない?俺、幼稚園の時に、手つなぎ遠足で……」
<……ないで>
「え?」
<雪将くん には いわないで もらえますか……」
「何で……? 三人で一緒に遊んだ事もあるじゃないか。」
<でも 雪将くんは おぼえて ないんです>
「……。」
<かれは なにも おぼえて ないんです……>
「そっか。」
<かれが おもいだす まで いわないで もらえますか>
言った方が雪も喜ぶと思う。
当時、雪がうたちゃんをどう思っていたか知らないけど、
思い出せなくても、それを知ったら喜ぶと思うんだけどな。
「分かった。言わないよ。」
<ありがとう>
理由があるんだろう。きっと。
俺には分からない、彼女なりの理由が。
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