#06 * 春雪

17/19
前へ
/19ページ
次へ
「じゃ、じゃあ、プレゼント取ってくる。ちょっと待ってて。」 バタバタと部屋に上がる雪の背中を見送ると、 また姫と二人きりにされた。 彼女はトントンと人差し指を合わせて、居心地悪そうにしている。 ♪ うたちゃんはね うたこっていうんだ ほんとはね だけど ちっちゃいから じぶんのこと うたちゃんってよぶんだよ ♪ その仕草で思い出した。 そう、うたちゃんだ! 幼稚園の年長の時、手つなぎ遠足で、俺が手をつないだ子。 長い黒髪で、肌が白くて、そうそう、あのうたちゃんじゃないか! 「うたちゃん?」 思わずそう呼んでみたが、彼女はギョっとしたように俺を見た。 「うたちゃん、だよね?同じ幼稚園だった。」 <……> 「覚えてない?俺、幼稚園の時に、手つなぎ遠足で……」 <……ないで> 「え?」 <雪将くん には いわないで もらえますか……」 「何で……? 三人で一緒に遊んだ事もあるじゃないか。」 <でも 雪将くんは おぼえて ないんです> 「……。」 <かれは なにも おぼえて ないんです……> 「そっか。」 <かれが おもいだす まで いわないで もらえますか> 言った方が雪も喜ぶと思う。 当時、雪がうたちゃんをどう思っていたか知らないけど、 思い出せなくても、それを知ったら喜ぶと思うんだけどな。 「分かった。言わないよ。」 <ありがとう> 理由があるんだろう。きっと。 俺には分からない、彼女なりの理由が。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加