#06 * 春雪

8/19
前へ
/19ページ
次へ
田舎に向かって車を走らせているから…… 蝉の声がどんどん大きくなってくる。 そして、とにかく暑い。 「母さん、クーラーの温度、下げてくれ。」 「もう限界まで下げてるわ。ごめんだけど、ちょっと我慢して、春くん。」 「雪は何をやってる。移動中に物を書くのはやめなさい。」 「お父さん、揺らさないでよ……書けない。」 「書くなと言ってるんだ!そんな事ばかりしてるから目が悪くなるんだ。」 「父さん、ちょっと多めに見てやって。宿題が終わらないみたいなんだ。」 「あら春くん、今年は手伝ってあげないの?  お父さんも、宿題ならいいじゃない。仕方ないでしょ?」 「……」 雪はあの日から何かを書いては捨て、書いては捨てしていたが、 最近やっと物語が軌道に乗ったようだった。 「僕たちの物語を書いてみるよ。」 「それって、実話ってこと?」 「そうなるのかな。それで、春兄に直し、お願いしたいんだけど。」 「俺がそれ読むの? 兄としてなんか気まずいんだけど。」 「火をつけたのは、春兄じゃないか。お願いだよ……自信がないんだ。」 「仕方ないな……これ、貸しだからな。」 と言って直しを引き受けたものの…… 正直、本当、あまり読みたくないな。 弟の、恋愛事情。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加