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「はい、春兄。」
「何?」
「一通り書いてみたんだ。直す所があれば、言って欲しいんだけど。」
「旅行中だってのに、もう……本当に貸しだからな。」
「ごめんね、ありがとう。」
原稿用紙の束を受け取る。
手元も心もズシリと重い。
どうしよう、ファーストキスとか書いてあったら。
こっちが恥ずかしくて死にたくなりそうだ。
皆さんお察しの通り、俺に彼女がいた事はない。
女の子に興味がないわけではないし、可愛いと思う子はいたけど、
恋愛感情にまで発展しないというか、
自分の中で恋人という存在の必要性を、あまり見出せなかった。
弟の悪口をいう人や、弟にいじわるする人は好きになれないし、
だからと言って弟を好きになる子も、タイプではなかった。
もちろん、そんな子、俺の記憶でも一人しかいなかったけど。
はぁ……
兄として、初彼女やファーストキスに関し、
弟に先を越されるのはどうなんだろうか。
自分がまだ経験していない分野で、弟に助言できることなんて、
果たしてあるのだろうか。
それとも雪は、俺に彼女がいるとでも思ってるんだろうか。
はぁ……
今、それを考えるだけ無駄だ。
引き受けたからには、読むしかない。
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