#06 * 春雪

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「はい、春兄。」 「何?」 「一通り書いてみたんだ。直す所があれば、言って欲しいんだけど。」 「旅行中だってのに、もう……本当に貸しだからな。」 「ごめんね、ありがとう。」 原稿用紙の束を受け取る。 手元も心もズシリと重い。 どうしよう、ファーストキスとか書いてあったら。 こっちが恥ずかしくて死にたくなりそうだ。 皆さんお察しの通り、俺に彼女がいた事はない。 女の子に興味がないわけではないし、可愛いと思う子はいたけど、 恋愛感情にまで発展しないというか、 自分の中で恋人という存在の必要性を、あまり見出せなかった。 弟の悪口をいう人や、弟にいじわるする人は好きになれないし、 だからと言って弟を好きになる子も、タイプではなかった。 もちろん、そんな子、俺の記憶でも一人しかいなかったけど。 はぁ…… 兄として、初彼女やファーストキスに関し、 弟に先を越されるのはどうなんだろうか。 自分がまだ経験していない分野で、弟に助言できることなんて、 果たしてあるのだろうか。 それとも雪は、俺に彼女がいるとでも思ってるんだろうか。 はぁ…… 今、それを考えるだけ無駄だ。 引き受けたからには、読むしかない。
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