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A「君、席かわってあげる」
向かい側の彼女が立ち上がった。
B「どうして?」
A「窓際は暑いでしょ。こっち側のほうが涼しいよ。」
彼女は窓際に腰掛けて一瞬、含みのある視線で僕をとらえた。
A「それに君にはここに座って、やらなくちゃいけないことがあるから」
そう言ってまた本に視線をおとした。
知っていたのだろうか。
この数秒後に彼女は熱線にさらされて上半身が蒸発してしまうことを。
彼女の影になって僕が奇跡的に一命をとりとめることを。
そして、ここから戦争の惨さを後世に伝える僕の長い長い旅が始まることを。
セミの声を聞くたび思い出す。あの日の彼女は――――誰だったんだろう。
彼女は僕の命を救ってくれたのか。
それとも、たった一人の人生では負いきれないほどの重荷を僕に預けにきたのだろうか。
遙かな未来か。
壮大な歴史か。
あの本には、一体何が記されていたんだろう。
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