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「誰だ!?」
「ひぃっ!!」
男は威圧的な声を上げ、それに腰を抜かした兵士は素っ頓狂な悲鳴を上げ、崩れ落ちた。
「だ、誰かいるのか!?」
パニックに陥った兵士は地を這って男の足元に辿り着くと、震える手で闇の中に銃口を向けた。一方の男は恐ろしい程の冷静さでアサルトライフルを構え、その人影を凝視し続ける。男は言った。
「ゆっくり出て来い。手を上げてゆっくり、こちらに出て来るんだ。そうだ、そうだ、いいぞ…手を下げるなよ、自爆なんか考えるなよ、あんた…おい、いい加減にしないか。こいつは一般人だ。爆弾もカラシニコフも持ってはいない。おい、やめろ。銃口を下げるんだ。一般人だと言っているだろう…そうだ、あんた、そこで止まってくれ。こちらから目を離さないで…って、」
一瞬、男は言葉を失った。
「…なんだ、子供か。」
「き、気をつけろよ!体に爆発物を巻き付けているかも分からんぞ!!」
「一生言ってろ馬鹿野郎。」
男は吐き捨てると、目の前で手を上げる子供…黒い瞳の痩せた少年を見つめ、そして不自然な程優しい声で言った。
「やあ坊や、寒かっただろう。欲しい物はあるかい?ここのは無いがキャンプには熱いココアがあるぞ。ん、何だ、食べ物がほしいのか?それとも…」
小さく、
「お父さんはどこ?」
確かに呟いた少年に、また言葉を失ってしまった男はややあって邪険な笑みを浮かべ、言う。
「はは、お父さんか。」
東の空に、一閃、暁の光が差し込み始めた。
「君のお父さんは多分…」
夜明けの兆しは、低く地上を舐め、硝煙を貫き、破壊された聖都の無残な姿を映し出す。モスクの屋根は鋭く輝き、皆目見えなかった大通りの瓦礫の山を照らしてみせる。微かに油の臭いがした。男は、暗視スコープ越しに表情を見せないまま、言った。
「きっと今ごろ『神様』の元だよ。私たちが送ってあげたんだ。」
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