夜明け

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 時刻は、午前四時を回っていた。  今となってはただ日が昇るのを待つばかりの、中東、砂漠地帯の肌寒さすら感じる夜の街。聖都の東の空は未だ紅には染まらず、ただ蒼くモスクの球体の屋根を影として、その虚無にも似た哀しさを湛える空の画面に投げかけている。寒風、靄、鼻腔を突く鉄の臭い。薄く周囲に巻き上がる砂塵に混じり、赤外の暗視スコープを曇らせるのは、つい数時間前まで銃口から排出され続けていた戦闘の名残。その中を二人、グレーの戦闘服に身を包んだ兵士が、長銃身の自動小銃を手に、警戒するように周囲を見回しながら進んでいた。 「…本部。」 常人なら間違いなく咽てしまうであろう濃い煙の中、前を行く男がおもむろに声を上げ、無線に向かって呟いた。 「こちら『オリバーⅣ』、先刻以降、異常は見られない。」 「こちら本部、了解した。それと『オリバーⅣ』、お前のバーディの心拍数がこちらの計測では200を越えつつある、異常は無いか?。」 「ああ…」 無線の向こうからの問いかけに一瞬黙った後、 「特に問題は無い。」 「そうか、それならよかった。任務に戻ってくれ。」 無線が切れたのを確認して、男は後方の兵士を手招きし、呼び寄せた。招かれた兵士は足早に砂と瓦礫の上を踏み越えると背後を確認、ライフルの銃口を闇の中へ向け、再び怯えているかのような警戒の体勢を取る。その惨めなまでの臆病な振る舞いは滑稽そのものである。先を行く男は小さくため息をついた。  石油利権を巡っての戦争は歴史上数あるが、その相手が具体的な政府やテロ組織等の形を呈していないとなると、事情が変わってくる。軍上層部から降りてきた作戦はこれまでと変わらぬ過激派戦闘集団の排除を目的としていたが、具体的な敵の組織、所属、その他名称は一切明かされぬまま作戦が進んでいた。男を始め、この作戦に参加する陸軍兵士は疑心暗鬼に陥っていた。敵の規模や装備が予測不能なため、適切な応戦が行えぬまま無為な犠牲を強いられるような戦闘が国内各地で繰り広げられている。男の相方が怯えるのも無理はない。陸側の国境からの侵攻から4ヶ月が経過していたが、敵地首都に攻勢を仕掛け、制圧してもなお何処からともなく姿を現し、他国企業の所有する石油プラントを爆破しては消えて行く武装勢力達に、軍の対応力は限界を迎えつつあった。
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