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「…大丈夫だ。先刻以上の抵抗はもう無い。」
男は怯える相方に言った。
「なぜそう言える?」
腰砕けの兵士の声はうわずっていた。
「どこに潜んでいるか分からないんだぞ…手早く先に進んで、さっさと終わらせちまおうぜ、こんな任務。」
「そりゃダメだ。」
「何でだよ?」
震える声で懇願する兵士に、男はあからさまに呆れた溜息をついてみせる。だが一方、平常心を失っている兵士は相変わらずの身勝手さで必死に言葉を繋げた。呆れるほどの身勝手さを以て。
「何でだよ?さっきの敵は目視できたからまだマシだ、けど次は分からねえだろ?軍部は全く信用ならねえ、いまだに山ほど秘密を抱えてやがる。おまけに敵は正体不明だが皆『神の使い』には違いねぇ、神のためならボーイングでビルにだって突っ込むんだ。」
「それなら俺達は、」
男は兵士の言葉を制するように言った。
「俺達は奴等から見れば、崇高な聖戦に抗う野蛮人だろう。」
「野蛮人はどっちだってんだ、クソッタレめ…」
足元の砂は小さな音を立てては埃を舞い上げ、優雅なまでの軌跡を残しては静寂の闇の中へ消えて行く。声を荒げる兵士は尚、自身の恐怖を言葉に乗せて吐き出した。
「ここの奴等はいつだってそうだ。暇さえありゃ神に祈って土下座していやがるんだ。銅像すら無えんだぜ、意味が分からねえよ、全く…」
「それは神によりけりだ。」
「そうじゃねえ!」
自分自身の声で更に興奮して行く兵士は、
「そいつは違う、奴等に神なんていないんだ!昔からそうだろ?何所に教徒に殺しを奨める神がいる?何所に年端も行かん餓鬼を兵士に仕立て上げる神がいる?何所に自爆テロを正当化させる神がいる?おいそうだろ、お前もそう思っているだろ!」
「音量下げろよ。」
注意を促されるものの、
「俺達の敵はそんな奴等なんだぞ、お前だってその綺麗なツラの皮の裏側では分かってんだろ!顔の見えない連中が、よりによってカラシニコフ担いで襲って来るんだ!」
「やめろ。声がでかい。」
「知るか!!いいか、そんな奴等は全部ぶっ殺しちまえばいいんだ!!見えない神も、ターバンの男共も餓鬼共も、シーア派もスンニ派もカラシニコフだってそうだ!!自爆テロも原住民もクソッタレだ!!皆死んじまえ!!皆殺せ!!誰もしないのならこの俺様が殺してやる!!出て来やがれ糞ったれ野郎共め、てめぇらの神はこの俺が殺したぞ!!」
「黙れ!!」
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