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早朝、砂漠特有の寒気の中、周囲を耳が痛くなるような静寂が包んでいた。
一声、怒鳴った男は振り返ると、激昂し喚き散らした兵士の襟首を掴みその場に吊し上げ、興奮の余り赤く血走った蒼眼を睨み付け、言った。
「頭を冷やせ。口を閉じろ。これは任務だ。冷静に、そして手を抜くことは許されない。お前の愚かな行為が、この国にいる35000の隊員の命を危険に晒すかもわからんのだ、分かるよな?」
「……」
兵士は、応えない。男は今一度詰問した。
「Do you understand?」
「…I understand.」
「good.」
男は手を離し、再び溜息をついて自動小銃を持ち直す。荒い息の兵士は瓦礫の中、僅かに崩れ残っている民家の土壁にもたれ、力なく廃人のように突っ立っている。男はちらりと、腕のデジタル時計を見た。四時十二分。砂漠の夜明けは早い。あと10分もしないうちに、空は明るくなり夜明けを迎えるのだろう。ふと頭上を見上げると、ほの暗い中を一羽、大型の鳥が、音も無く滑るように飛んで行くのが見えた。夜鷹だった。そんな名の攻撃機があったな、と男は苦笑し、某国の兵器の名を冠したそれを、西の空へ見送る。大きな影はゆっくりと、一、二度羽ばたき、やはり音の無いままに闇を滑り、まどろみ、そして靄の中に消えて行く。背後の廃屋に人影を認めたのは、その直後の事であった。
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