57人が本棚に入れています
本棚に追加
「そなたの儀式の日程が決まった。二日後、そなたを神の御元へ送る」
抑揚のない声で告げられた言葉に、心は揺れなかった。
来るべき時が来た。浮かんだ言葉はただそれだけだった。
私を見据える瞳にあるのは村長(むらおさ)という役目を持った者の義務感ただ一つ。同じ人を見ているというよりは、穢らわしい道具を見ている気持ちですらあるのが感じられる。
下がっていいという村長に、頭を下げて室内を出た。
母屋で一番立派な庭に植えられた桜の木から、薄紅の花びらがひらひらと艶やかに舞っている。
柔らかな春の日差しが注がれている庭に吹く風が心地よい。桜に誘われるように、暫しの間庭を見続けた。
村長に見つかれば、早く部屋に戻れと叱られるだろう。
いつもの私ならすぐに部屋に戻るところだが、今日は魅入られたように目が離せない。
・
最初のコメントを投稿しよう!