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「雪華(せつか)」
名残惜しく思いながら、声の方を振り返る。
空のように澄んだ青い瞳が私を見ている。他の者が揃って冷たいと囁く瞳は、私にはとても温かい。
他の者が私を道具として見るような瞳ではなく、私個人を見てくれている唯一の瞳。
「空……迎えに来てくれたのか。ありがとう」
「戻ろう」
短い言葉とともに差し伸べられた手を取る。
薄い皮と軟弱な骨で出来たようなみすぼらしく痩せた私の手とは違って、厚みのあるしっかりとした大きな手だ。
伝わってくる温もりも感触も、全てが心地よくて好きだ。
その手に引かれながら、母屋から裏手に少し歩いたところにある、こじんまりとした離れに帰った。
離れは私の身の回りの世話をしてくれる空と、主の私しかいない。あといるとすれば、私が逃げ出さないよう村長の命令で密かに監視している者だろうか。
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