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ふいに言葉が零れる。
「母上……貴女は、顔の分からない息子の私を迎えてくれるだろうか?」
母上は異例だった。穢れない身として、異性との肉体関係を持つことを禁じられている中で当時の母上の世話役と繋がり、私を身篭ったのだ。
母上は”刻印の子”と呼ばれる者だった。その子である私も。
”刻印の子”とは、島の人間が信仰する神の気まぐれによってたった一人生まれることが決まっている、白髪と身体のどこかに華の刻印を持った者のことだ。神へ捧げられるためだけに生まれて死ぬ存在。
代々村長の一族の女人から一人輩出される、【姫】と呼ばれる者が、神から力を授かるためだけの代償として。
神によって白矢が放たれた二日後に、神へ刻印の子を差し出す。そしてまた刻印の子が生まれ、神から白矢が放たれたら、その二日後に神へ捧ぐ。その繰り返しだ。
数百年前からのこの島と神による契約だった。
私の父は母上と繋がった罪で殺され、母上は穢れた身にはなったが、神は許したという。次の刻印の子かもしれないと言って島の人間の反対を押しきり、この部屋で私を産んですぐに神の御元へ召された。
母上のような贄の代償で授かった力で”姫”は望むだけ未来を知り、過去を知る。姫自身のなんらかの代償と引き換えに、人を縛ることも、記憶を消すことも容易いらしい。
この島は小さい。大した軍事力も持たない島国の未来など決まっていた。だから神に望んで奇跡的に授かった力で他国からの脅威から島を守護し、ひっそりと慎ましく生きていた。
が、今ではそんな慎ましさなど見る影もない。島の守護を強固に、そして豊かに潤す為だけに、神から授かった力を取引材料として諸国に差し出した。
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