暗闇の果てで君を想う

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湯気の立った湯呑を渡される。 「冷めるぞ」 「……ありがとう」 一瞬でも本気にしてしまったことに苦笑しそうになりながら、湯呑を受け取る。 滅多に冗談を口にしない空が、あんな洒落た冗談を言えるようになっていたとは……。 出会ってから十三年、一度も愛しているなどと洒落たことを言ったことがなかったというのに。 茶を飲みながら、ちらっと空を盗み見る。凛とした居住まいで、何事もなかったかのような涼しい表情をして茶を飲んでいる。流されたということは本当に冗談なんだろうな。 また苦笑しそうになるのを茶を飲んで誤魔化した。 ……村長に呼ばれた時点で、察しはつかれているだろうが言っておかねばならないな。 半分ほど中身を残して湯呑を脇に置いた。居住まいを正す。 空、と名を呼べば、鉄格子越しの青のように静かな瞳が私を見て、すぐに察したように持っていた湯呑を脇に退けた。 ・
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