雨、上がれ。

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 ほんの少し、視線を上げて会釈する君。  無言の挨拶は、利用する人の少ない駅で、気まずさを消す為のおまじないみたいで。初めは互いにぎこちなく、何時しか微笑みが浮かぶ様になっていた。  でも今日は少し違って。  うつ向いた彼女の、手にある本に雨が降る。  ぱたぱたと、乾いた音を立て。  外は初夏の陽射し。  もうすぐ蝉達が恋を歌う季節。 「どうしたの?」 「失恋、しました」  ぱたぱたと降り続ける雨。 「告白もしていないから、振られてさえいないんですけど」  きっとその透明な雨と同じ、ガラス細工みたいな心。 「勇気、出せば良かった」 「……勇気、出そうかな。僕は君よりズルい大人で、君の弱さにつけ込むやり方だけど」  不器用な言葉の意味が分かったか、潤んだ瞳が見開かれ、苦い微笑みが浮かぶ。 「本当、ズルいです」  でも良いかな。  雨、止んだ様だし。
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