4人が本棚に入れています
本棚に追加
「だってそんなの・・・・来なかったじゃん」
「うん・・・確かに行ったんだけど・・・・会えなかったんだ」
「えっ?」
「その日・・・・・隆正のご両親が交通事故で亡くなった日で。家の前に報道の人とか警察の人とか近所の野次馬とかがいて・・・・・大事故だったんだよね。全国ニュースでも流れてたらしいし」
「あの日・・・・か」
ヒグラシの泣き声がやけにうるさい。咽るような暑い空気。
少し前のことだが遠くにしまい込んでいたあの日の記憶。
「こんな女装して隆正に会いに行く雰囲気じゃなかった。その後すぐに引っ越しちゃったよね」
「もう学校にも行かなかったな」
「でもね。次の日、学校に来てももう会えなかったんだよ」
「えっ?」
つかさの胸からドクドクと血が流れ出している。
「うわっ!どうして?なに?」
「あの後ね・・・その恰好で一人で帰ってたら3人組の男に強姦されて・・・・・男だってわかるとナイフで胸を刺されたんだ」
「血・・・血を止めろ」
「大丈夫・・・・もう痛くないよ。隆正にに言いたかったことずっと考えて天国に行ったから・・・・想いが残っちゃっただけ」
そう云うとつかさの躰がどんどん透けていく。
「つかさ!」
「隆正・・・・好きだった・・・・今も大好き」
手を伸ばしてつかさの躰を掴もうとしたらもう影も形もなくなっていた。
「つかさ・・・・・」
涙がとめどなく流れてく・・・・・自分がいっぱいいっぱいで、つかさの事を今の今まで考えてもやれなかった自分に腹が立つ。
バス停の砂の上に涙がぽたぽたと跡を残す。そこには一輪の白いマーガレットの花が落ちていた。
Fin
最初のコメントを投稿しよう!