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水曜日の昼下がり。営業の帰りに一時間に一本しかない街行きのバスを待ちながら、俺は目の前で本を読み耽る少女に目をやった。社会のルールに縛られない文学少女と自分の違いについつい溜息を吐く。
ーー自由になりてえな。
出したものの火を付けれない煙草を咥えたまま思わず声に出してしまった心の叫び。少女がふと顔を上げ俺を見つめた。
少し考えた後、少女は突然立ち上がり壁に貼られていた禁煙ポスターを思いっきり引っぺがし、呆気に取られる俺を横目に軽やかにこう告げた。
「水曜日くらい、逃げてもいいんですよ」
少女の腕の間から見える小説のタイトル。それを見て俺は小さく笑う。誰しも抱えているものはあるし、逃げたいものだってある。
「次のバスは何時に来るのかな?」
「さあ、何時なんでしょうね」
少女は微笑み、俺はそれに応える替わりに煙草に火を付けた。こうして、少女と俺だけの”小さな逃避行”はもう暫くだけ続く。
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