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「いつもここに居るよね」
あの人は私にそう言った。
馬鹿にするみたいに、呆れるみたいに。
恥ずかしかった。
だけど嬉しかった。
「あ…はい」
顔を直視出来ず、私は汗で纏わりつく髪を耳に掛けるだけ。
ポニーテールにしようか。
それとも思い切ってショート?
中々髪型を変えられなくて、ずっと重苦しい黒髪を伸ばしたままで、真夏でさえもそれを背中に羽織っていた。
そんな変化さえ恐れていた私に踏み込んで来た人。
私の日常に変化を与えてくれた人。
「いつもここに居るよね」
二度目のその言葉に私は顔を上げた。
髪型を変えたいの。
どんなのが私に似合うかな。
貴方はどんな髪型が好き。
聞きたい事、話したい事が出て来た。
変化を楽しみ始めた。
なのに…。
「人を、待ってるんです…」
あの人はあれきり私の前に現れない。
私はまた、本に視線を落とす。
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