教室の戸を開けたら、そこには

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 進級して、初めての夏休みに入った。  あれから、もう一年の歳月が流れていたが、愛奈さんの事ばかり考えてしまう。会える日が近づけば近づくほどに僕の愛奈さんに対する僕の想いは、よりいっそう強くなっていった。  自分の部屋の中をうろついたあと、机に向かった。  あれから、何回も絵を描いた。愛奈さんの横顔を頭の中で想像しながら、鉛筆で描いてみたが、自分で納得のいく絵を描くことは、できない。  机に向かって絵を描いていた僕は、愛奈さんの横顔を間近で見て描けばいいんじゃないかと最初の内は考えていた。  けれど、愛奈さんのことを考えるといてもたっても居られなくなる。僕は、愛奈さんの言った、『来年ね』だけを頼りにして下手な絵を描いていく事しかできなかった。部屋に掛けられている時計を見ると短い針は、二時を示している。  去年より少し早い時間帯に家を出ようとしていた僕は、階段を下りて玄関に向かった。すると、母さんが玄関の前で待っていたようだった。  僕に『いってらっしゃい』と言って背中を押してくれた母さんは、不安そうな表情をしている。なぜ不安な表情を見せているのか僕には、よくわからなかったが、これ以上、不安にさせたくないという思いから、愛奈さんに会うことは、言わないことにした。 『大丈夫だよ。忘れ物を取りに行ってくるだけだから』  そう言って僕は、玄関の扉を開けた。
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